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金沢市夜間景観形成計画
はじめに
当社の独自研究開発業務の中の「金沢市夜間景観ワークショップ」について、その検討過程と研究成果の概要を紹介します。研究メンバーは、当社の社員6名の他、研究を進めるにあたってのプロジェクトディレクターとして、当社の顧問であるマサチューセッツ工科大学(MIT)の神田教授に指導を受けながら合宿形式で行いました。
神田教授のPROFILE
神田教授は、ボストンに在住しており、MITで都市計画及び建築学を専門に教鞭をとっています。
主な業務実績としては、「大阪りんくうタウン」「幕張新都市ハウジング」「みなとみらい 21」「東京フロンティア台場」「マサチューセッツハウジング」などのビッグプロジェクトの基本設計を手掛けています。
Shun Kanda
研究成果
「夜間景観」と言うとライトアップを想像しがちですが、不愉快な明かり等を取り除き地域風土に溶け込んだ夜間景観のあり方について我々なりに考えてみよう、ということがテーマを選んだ端的な理由です。
その背景として、以下のものがあります。
社会的な背景からの発想
明かりの氾濫
コンビニエンスストア等の進出で、まちの活動が24時間化するにつれて、ケバケバしい明かりが夜のまちの景観を損ねている現状が見られます。
コンビニエンスストアから漏れる明かり
夜間照明の質的低下
夜間照明については、経済性を重視した水銀灯や蛍光灯が多くなりました。
精神的な豊かさが求められている中で、今後は、使用する用途・場所に合わせて照明の種類や 方法をもっと工夫することが必要と考えられます。
店の前で眩しく光る水銀
金沢であるがゆえの発想
景観行政のさらなる推進への期待
金沢市は、これまでも景観行政に対して、積極的な取り組みを見せており、全国的にも高水準にあります。このような景観行政への積極的な姿勢が背景となって、今後のさらなる推進を期待し、昼間のみならず夜間においても金沢にふさわしい景観形成のあり方を研究しようと考えました。
変化に富んだ地形での研究効果の期待
金沢には変化に富んだ地形があります。野田山丘陵や卯辰山丘陵等からの眺望は、昼間のみならず、夜間においても、光と闇のコントラストによって金沢の地形を浮かび上がらせています。
我々は、金沢のこの貴重な地形や自然を守るために、夜間景観という視点からも研究する必要があるのではないかと考えました。
野田山から見た夜景
ワークショップの進め方
合宿形式でのワークショップ
ワークショップは平成10年8月3日~8日の1週間、当社の寺町研修所を拠点に、神田教授と研究メンバーが寝食をともにしながらの合宿形式で行いました。
研究の進め方
その研究の進め方は、夜間に、現地を踏査し、現地のポイントで、度々立ち止まり、明かりの善し悪しについて議論し合うという現場でのワークショップ形式です。
また、日中は、前夜に確認した明かりの善し悪しについて確認し、まとめ方の方法について、徹底的にオープンディスカッションを行い、思いついたら、誰でも自由に話し合うという手法で議論しました。
研修所内での議論風景
成果の作成イメージ
研究の成果は、視覚的に解りやすくするため、本ではなく、一つ一つ独立した絵巻物のようなパンフ レットとして仕上げました。
研究成果の概要
金沢の夜間景観に対する評価・考察
夜間の現地踏査において、金沢の街なかには、優れた照明もたくさんありましたが、場所によって、幅が狭いのに異常に眩しかったり、家屋に近いのに照明ポールが高く、二階居室に明かりが当たる等の問題視されるケースも見られました。
このような実態を裏付けるためにヒントとなった文献で、乾正雄先生の「夜は暗くてはいけないか」の本の中で、日本人とあかりについて、興味深いことが書いてありました。
それは、「文明開化以来、日本人は文明とは明るいことと思い、国土を明るくすることに努力した結果、日本はいとも簡単にヨーロッパより明るくなった。」
また、「日本人の『黒い眼』は『青い眼』よりも、まぶしさに対する耐久力が倍もあるが、悪く言えば、日本人は、明るさに鈍感である。」 「それらが、日本において、白くて明るい蛍光灯や水銀灯が一気に普及し、光が氾濫した要因の一となっている。」ということです。
要するに日本人は、明るいことに関しては、そもそも悪いことと思っていませんでした。その結果として最近、日本では、黒い眼の度が過ぎるくらい明るくなりすぎているのではないでしょうか。金沢でもこの傾向が見られていると考えられます。
家の二階へ漏れる街灯
我々は、このような要因ともう一つは、車社会が原因ではないかと考えました。
今では、街なかの狭い路地にいたるまで、車主体の道路空間となっており、現地を歩いていても、金沢を感じない、人が住んでいるのに気配を感じない、冷たい空間となっている気がします。
夜間景観にも金沢の姿を浮かび上がらせるには、人が歩くことをもう少し意識した、人のための道づく りを行っていく必要があるのではと考えました。
そのためには、道路の幅員や沿道の状況と、あかりのボリューム(①ポールの高さや 太さ・デザイン、②灯具の形・大きさ・色、③照明の間隔)とのバランスが非常に重要であると考えました。
あかりのとらえ方
我々は、日頃、目にするあかりを「大のあかり」「中のあかり」「小のあかり」に分類し、研究を行いました。
それぞれのあかりが重なり合って、その都市の夜間景観を構成していると考えました。
一般的に夜間景観を捉える際には、「小のあかり」に着目し、ライトアップ等の取り組みがなされますが、私たちは、もっと大きな視点で、「大のあかり」や「中のあかり」にも注目し、そこから研究を行いました。
「大のあかり」は、金沢のまちの地形を読むあかりで、市街地の明るい場所と、斜面緑地・河川等の自然地による暗い場所とのコントラストを表現する重要な要素となります。
金沢は、「大のあかり」がどの都市よりもはっきり分かる街であると考えられます。
「中のあかり」は、道路空間のなかや公共施設の周辺のあかりなど、街なかで金沢の生活や奥深さなどを読むあかりで、道路空間と照明の明るさ、間隔等が重要な要素となります。
「小のあかり」は、玄関照明や建物・橋のライトアップなど、人やまちのあたたかさや存在を感じるあかりで、住民・行政・民間企業などの協力や支援が重要な要素となります。
研究の手法と内容
我々の研究の対象としたところは、香林坊や片町などの繁華街を除く、住宅地や河川空間を対象としました。繁華街のあかりは、街のにぎわいや活気を生むための不可欠な要素であり、本研究における景観的側面からの適材適光のあり方を考えるという視点と異なるからです。
また、研究の評価手法は、「大のあかり」「中のあかり」「小のあかり」に対して「スライス評価」を 用いました。
「スライス評価」とは、特定の景観対象物(道路や河川等)に対して、先ずその断面での評価を行い。それに加えて、その断面から奥行きを持った景観構成のあり方を考えようとするものです。さらに、その奥行きのなかで、断面自体にない、特徴的な要素を捉えるという手法です。
金沢市の市街地内部で研究の対象としたスライスは、大スライス:1、中スライス:7とし、小スライス は、個々の中スライスの中で適宜選定しました。
また、各スライスでの評価は、「ラテラルシンキング(連想的発想)」による教授を含めた研究メンバー全員の議論により、夜間景観のあり方を整理しました。
大スライスの評価検討例
中スライスの評価検討例
研究成果
研究成果は、『Kanazawa After Dark』、「金沢の宵物語」と題し、絵巻物風の提言書として作成しました。
絵巻物の成果イメージ
本研究成果の内容や、本ワークショップに関してのお問い合わせは下記までお願いいたします。
(お問い合わせ先)
〒924-0838
石川県白山市八束穂3丁目7番地
(石川ソフトリサーチパーク内)
株式会社国土開発センター 環境2部
TEL:(076)274-8818 FAX:(076)274-8427